○中央研修会
1.
2.研修場所:石川県立大学第1大講義室
3.テーマ:「世界の食料事情」
−食料自給力の向上に向けて−
4.趣旨:
現状の食料事情を認識し、現在実践されている食料自給率の向上に対する取組に理解を深めるとともに、今後の食料自給力の向上に向けた方策を模索する。
5.プログラム:
13:30〜13:35 【開会挨拶】
石川県農業土木技術連盟委員長
村島 和男氏
【講 演】
13:35〜14:35
世界の食糧危機と石川の地域農山漁村の発展策
石川県立大学教授 辻井 博氏
14:40〜15:40 能登の農地を耕す
葛熨大地 代表 井村 辰二郎氏
15:50〜16:50
世界の食料事情と国際研究協力
(独)国際農林水産業研究センター 農村開発調査領域長 大田 武志氏
6.参加者数: 83名
7.講演要旨:
世界の食糧危機と石川農業のあり方
石川県立大学教授 辻井 博
未曾有の世界食料危機が去年から今年にかけて発生した。歴史上、これほどまでに米、メイズ(トウモロコシ)、小麦の世界貿易価格が急上昇した経験はない。2005年の平均価格と2008年のピーク価格を比較すると、実に3倍前後に上昇した。世界人口65億人の内55億人を抱える途上国世帯のエンゲル係数は、おおよそ70%(日本は約20%)と非常に高く、穀物中心の食生活であることから、穀物価格の暴騰はこれら世帯の飢餓を非常に悪化させた。特に、世界に約8億人存在する飢餓人口を危機に陥れ、世界各地で食料暴動を引き起こした。
食料安全保障は、途上諸国のみならず、日本のような先進食料輸入国でも重要である。世界で穀物価格などが急騰し、それらを原料とする国内食料品などの価格が急騰した。食料自給率40%の日本で食料輸入継続性の不安も高まり、日本人の食料に関する安心感は低下した。
世界食糧危機の短期的要因としては、サブプライム・ローン問題を端緒とする巨額の投機資金の先物市場への流入、バイオ燃料需要の急増などが考えられる。また、長期的な要因としては、@人口爆発、A飼料需要の急増、B技術進歩の停滞、C水・耕地など自然資源の不足、D地球温暖化が考えられる。世界穀物反収の増加率は、1960年代の年率約3%から現在約1.3%と、人口増加率とほぼ同じになり、食料需給が逼迫してきている。辻井の研究では、トルコの小麦生産が、地球温暖化の影響の春の高温・干ばつなどにより、2070年に40%ほど減少し、食料危機が発生すると予測した。
日本の農林漁業の経済的価値はGNPの1%で、それは内部経済効果である。一方、農業・農村が持つ、食料安全保障の維持、原風景の保存、洪水防止機能など多面的機能の外部経済効果は約8兆円と試算されており、農林漁業の1%の付加価値に等しい。WTOの交渉に当たっては、この多面的機能を全面に押し出して交渉すべきである。
品目横断的経営所得安定対策は、農産物貿易を自由化し、40万戸の大規模経営のみを保護する政策である。日本の集落営農の大部分は、大規模企業的経営になりにくく、中山間地域の小規模高齢農家150万戸は切り捨てられることになる。日本の稲作経営の大規模化は必要であるが、厳しい限界を十分理解すべきである。日本の平均米生産費は、タイの20倍、米国の10倍である。また、米生産の最適規模は、日本で15ha、米国では500haである。よって、現在の日本国内米価を自由化で国際米価に下げ、直接支払いで大規模経営を維持するのではなく、公正な国内農産物価格を維持し、その価格で大規模経営の形成を持つ政策が望ましい。
日本の集落営農は、「生活の理論」※1で行われ、「経営体」※2ではなく「自然体」※2である。だから日本農政は、企業的集落営農を追求するのではなく、中山間の「生活の理論」で実施されている「自然体」の集落営農を農政の対象にするべきである。直接支払いではなく、公正な国内農林水産物価格を復興し(自律的農業政策)、その価格を指標にして効率的大規模経営が自由に形成されるようにすべきである。計画経済的・全体主義的に、無理に大規模化する農政は改めるべきと考える。そうすれば日本の多くの集落で高齢者による農林漁業生産が活発に行われるようになり、農林水産業の食糧安全保障や食料自給率の向上を含む多面的機能も確保できる。
石川県の農家数は、1960年代からのトレンドから2030年には消滅が予想される。石川県のコメ自給率のあるべき姿として、「自給率関数」※3の推計から、全国的視点から、現実の152%から228%であるべきであることが分かった。こうしたなか能登の振興策については、農都交流の拡大や定住人口を増やすことなどが重要である。その一方策として能登鉄道の廃線区間を活用したロコ(トロッコ蒸気機関車)のエコトレイン走行を企画している。この他能登の祭りを通じた活性化や空きや家利用会社等の設立を促進し、農都交流と定住者の増加を図り、能登・石川の農林漁業を活性化させるべきである。
※1:桂明宏「集落営農と経営政策」
※2:酒井富夫「集落営農をめぐる議論とその可能性」
※3:辻井・大石「自給率関数による研究」
能登の農地を耕す
葛熨大地 井村辰二郎
大学卒業後、地元の広告代理店に勤務。その後、ここを脱サラして平成9年に就農。就農に迷ってお世話になっていたあるお客様に就農について相談。引き留められることを期待しがら相談したものの、あっさり就農を勧められた。「今後、何回作くれるのか。悩む必要なない。」その一言が就農を決意させた。
農家である自分の家庭の食事について、自給率を計算したところ55%にしか過ぎなかった。子供たちはめん類等小麦を使った食品が大好きで、自家での食料自給率を向上させるため小麦の栽培を始めた。営農作物は、就農当初からニッチ産業である小麦・大豆の有機栽培を目指すことにしたが、父の猛反対を受けた。父との議論の末、有機栽培に取り組んだが、今もなお雑草対策に悪戦苦闘している。
日本では弥生時代から、世界ではメソポタミア文明から農業が始まっている。バブル崩壊後、株式会社は5年程度しか保てなくなったが、農業はこれからも必要であり、衣食住の全てに関わっている。農業は千年以上続く産業である。
父の代には、半農半漁であったが河北潟干拓を期に漁業権を放棄し、農業一本で河北潟を中心に営農に取り組んだ。就農当時は、約30haであったが、現在では河北潟約90ha、
現在、金沢農業が生産部門を担当。葛熨大地は、そこで生産された農産物の加工・販売部門を担当している。農産物は生産だけでは儲けがない。加工までやって儲けがでる。加工の手始めに豆腐づくりに取り組んだ。3時起きで営農の合間を縫って、とうふづくりに取り組んだ。なかなか商品として出せるものができなかった。現在ではこの経験を生かし、加工品についてはその分野のノウハウを活用するOEM契約により、自社ブランドである金沢大地として販売している。
安心して食べられる有機農法で使った小麦を提供することが穀物農家の使命だと思っている。有機肥料である堆肥も無添加飼料による鶏糞や自社の米糠、おからなど、トレースできる安心原料だけを使っており、生産者と消費者がお互いに顔のわかる農業を目指している。全国でも加工品の原材料を1農家でトレースできるのは葛熨大地だけである。消費者にインターネットや生産現場を見せる。実際に生産現場を見せることで農産物の安全・安心に対する信頼を得ている。
ある日、神奈川県の逗子でパチンコ店を経営する一人の青年が事務所を訪ねてきた。逗子の商店外の活性化のため、「亀焼き」の食材にこだわり、お宅の小麦粉を使うことに決めたとのこと。「亀焼き」とは、逗子海岸に産卵にくるウミガメをモチーフとした鯛焼きならぬ亀の形をした焼き菓子。当店は、今年6月に開店し盛況のようである。
この他、
小麦・大豆・米における慣行栽培と有機栽培の収入を比較すると、単価は慣行栽培より高いものの収量が落ちるため、手取りを考えると小麦・大豆に至ってはほとんど変わらないのが現状である。国内では、有機農産物に対する評価が低いのが現状である。米は、単価が高めで収量があまり落ちないので有機栽培による収益のメリットがある。これまでの農産物の生産から流通の構図は、流通業者、消費者の2者勝ち。今後は生産者、加工者、流通業者、消費者の4者全てがWINの構図でなければならない。
葛熨大地HP(http://www.k-daichi.com/)
世界の食料事情と国際研究協力
(独)国際農林水産業研究センター農村開発調査領域長 大田 武志
国際農林水産業研究センター(JIRCAS)は、農林水産分野における開発途上国との共同研究を目的とする唯一の独立行政法人である。世界銀行等の拠出の下、国連ミレニアム開発目標(途上国の飢餓の撲滅と砂漠化の防止等)を担う国際農業研究協議グループの拠点研究機関として、大きな実績と高い評価を得、日本の国際貢献の一躍を担っている。平成20年4月には、独立行政法人緑資源機構の海外業務を承継した。
JIRCASは、国際的な食料・環境問題の解決に向け、国の方針に沿った研究開発を長期的・戦略的に推進し、地球規模の公共財を提供することを活動の主な目的としており、大学における学術研究や利益追求を主目的とする民間研究とは、異なる性格のものである。
JIRCASの具体的な取組としては、アフリカのための新しいイネ「ネリカ(NERICA:
New Rice for Africa)」の開発に対する研究協力を行っている。食料不足が恒常的なサブサハラアフリカでは、近年コメの需要が伸びるが(年間800万トン)、その多くを輸入に依存。地域の食料安全保障のためには、地域内におけるコメ生産力の向上が非常に需要な課題である。このため、アフリカ稲センター(WARDA)では、アフリカ稲とアジア稲をかけ合わせて、アフリカの厳しい栽培環境に適した新しいタイプのイネ「ネリカ」を開発(2007年までに18品種を育成)。日本はネリカの開発に資金・技術援助を行い、JIRCASは1998年から継続してWARDAと共同研究を実施している。現在、普及を開始して5〜6年であるが、サブサハラアフリカの30ヶ国、20万haでネリカが栽培されている。ウガンダでは、トウモロコシからネリカに切り替えた農家が、273〜481米ドル/haの増収を達成するなど成果を上げている。
続いて、黄砂発生源対策のための牧民参加による放牧地マネージメント計画策定に係る調査を実施している。モンゴルでは、1990年の市場経済導入以降、家畜の私有化や頭数の自由化、さらに失業者の牧民化や、カシミヤ山羊の増加等による急激な家畜構成の変化に起因して、地域的な過放牧の状態が発生している。このことは草地植生の後退や草種バランスの悪化など植生劣化を招き、これが黄砂発生拡大の原因の一つと考えられており、我が国への影響が懸念されている。このため、黄砂発生源対策として、植生回復を目的とした放牧地マネージメント計画を牧民と行政職員が立てられるように能力向上を目指し、植生回復の方法、水資源の管理、再生可能エネルギー利用、牧畜改善などの技術や手法の開発とその汎用化を図る取り組みを実施している。
このほか、地球温暖化対策のための温室効果ガスの削減量取引の仕組みを活用して、クリーン開発メカニズム(CDM)事業を組み込んだ農村開発手法に係る調査をパラグアイで実施している。CDMとは、先進国が開発途上国で温室効果ガス削減事業に投資し、削減分を自国の目標値とする総排出枠に上乗せし、排出枠を緩和できる制度である。
翻って国内の農業農村整備事業における地球温暖化対策として上記のような視点を事業効果の中に取り込むことも必要ではないだろうか。特に、石川県では、小水力発電の活用が考えられる。例えば、宮竹用水上郷発電所の最大出力640kwをもとに年間のCO2削減量を試算したところ、約1,600トンの削減に相当する。農業農村整備事業における温暖化対策の更なる検討を期待する。
